あれ?
行きもこの部屋、扉開いてたよな?
人生で初めての、自分を癒す旅だった。
そこそこ良い旅館に泊まり、部屋で酒をのみながらダラダラする。
どっと瞼が落ちる前に、風呂に入っておこう。
そう思い立ち、大浴場を目指していた。
客室が並ぶ廊下を歩いていると、扉が薄く開いている部屋にたまたま気がついた。
?
締め忘れか?
いや〜、扉を開けっぱなしにしても問題ないって、ほんと日本って平和だよな〜
中国出張から帰ってきたばかりで、気づけば、日本の治安の良さにやたらと感心する旅になっていた。
あ、あと清潔さも。
客室の扉がただ開いていただけなのに、謎の感心と興奮が湧き上がる。
久しぶりの日本で、俺の胸の高鳴りハードルが下がってるのかもな(笑)
やや浮き足で大浴場へ向かったのだった。
久しぶりの大浴場は、一年分の疲れがとれたと思えるくらい気持ちがよかった。
また気分が良くなっている。
ほてった体に、ビールが流れ込んでいく様子を想像するとまた俺の胸が高鳴りだす。
急ぎ足で部屋着の浴衣を着て、ドライヤーで髪を乾かす。
いつものシャンプーと違う匂いがするたびに、ここが自宅じゃない実感が湧いてくる。
あれ、部屋にビール余ってたっけ?
少し心配になりながら廊下を歩いていると、無意識に視線があの部屋に引き寄せられる。
あれ?
行きもこの部屋、扉開いてたよな?
普通に歩いていたら見落としてしまうくらい、ほんの少しだけ扉が開いている部屋。
気づくと俺は、その部屋に近づいて声を出していた。
「すみませーん!
扉、開けっぱなしになってますよ〜!!」
俺は完全に勢いで動いていた。
他人に構うようなこと、普段は絶対しないのに。
どちらかというと、見て見ぬふりをするタイプなのに。
中国出張で中国人と散々しゃべったおかげで、
日本人が少し恋しかったのかもしれない。
それか、一人旅があまりに順調すぎて調子にのっていたのか…
・・・。
返事がなかった。
留守?それならそれでいいけど…
「すみませ〜ん!留守ですか〜?」
この部屋の宿泊客に感謝されると思い込んでいた俺は、少し意地になっていた。
せめて留守であることをこの目で確認しようと、扉を開けて中に入る。
玄関に入ると、反射的に扉をピタリと締めていた。
部屋の奥を覗き込むと、そこには暗闇が広がっている。
あ、暗い…
なんだ留守か…
…
?
あ、奥で…
誰か寝てる?
小さな灯りの横、床の上に人の体のようなものが横たわっていた。
え?生きてるよな?
急に火曜サスペンスのような展開になり、冷や汗が流れる。
えっ、俺、もしかして第一発見者?
なんて妄想しながら、後先考えずにその人のようなものに近づいていく。
「え…?!?!?!」
続く
コメント