旅館で(1)












あれ?



行きもこの部屋、扉開いてたよな?












人生で初めての、自分を癒す旅だった。










そこそこ良い旅館に泊まり、部屋で酒をのみながらダラダラする。






どっと瞼が落ちる前に、風呂に入っておこう。




そう思い立ち、大浴場を目指していた。






客室が並ぶ廊下を歩いていると、扉が薄く開いている部屋にたまたま気がついた。












締め忘れか?






いや〜、扉を開けっぱなしにしても問題ないって、ほんと日本って平和だよな〜








中国出張から帰ってきたばかりで、気づけば、日本の治安の良さにやたらと感心する旅になっていた。



あ、あと清潔さも。






客室の扉がただ開いていただけなのに、謎の感心と興奮が湧き上がる。






久しぶりの日本で、俺の胸の高鳴りハードルが下がってるのかもな(笑)






やや浮き足で大浴場へ向かったのだった。











久しぶりの大浴場は、一年分の疲れがとれたと思えるくらい気持ちがよかった。





また気分が良くなっている。




ほてった体に、ビールが流れ込んでいく様子を想像するとまた俺の胸が高鳴りだす。




急ぎ足で部屋着の浴衣を着て、ドライヤーで髪を乾かす。



いつものシャンプーと違う匂いがするたびに、ここが自宅じゃない実感が湧いてくる。









あれ、部屋にビール余ってたっけ?





少し心配になりながら廊下を歩いていると、無意識に視線があの部屋に引き寄せられる。









あれ?


行きもこの部屋、扉開いてたよな?






普通に歩いていたら見落としてしまうくらい、ほんの少しだけ扉が開いている部屋。









気づくと俺は、その部屋に近づいて声を出していた。





「すみませーん!

扉、開けっぱなしになってますよ〜!!」







俺は完全に勢いで動いていた。




他人に構うようなこと、普段は絶対しないのに。




どちらかというと、見て見ぬふりをするタイプなのに。






中国出張で中国人と散々しゃべったおかげで、


日本人が少し恋しかったのかもしれない。






それか、一人旅があまりに順調すぎて調子にのっていたのか…










・・・。



返事がなかった。



留守?それならそれでいいけど…






「すみませ〜ん!留守ですか〜?」




この部屋の宿泊客に感謝されると思い込んでいた俺は、少し意地になっていた。



せめて留守であることをこの目で確認しようと、扉を開けて中に入る。




玄関に入ると、反射的に扉をピタリと締めていた。






部屋の奥を覗き込むと、そこには暗闇が広がっている。






あ、暗い…


なんだ留守か…











あ、奥で…



誰か寝てる?





小さな灯りの横、床の上に人の体のようなものが横たわっていた。







え?生きてるよな?






急に火曜サスペンスのような展開になり、冷や汗が流れる。







えっ、俺、もしかして第一発見者?






なんて妄想しながら、後先考えずにその人のようなものに近づいていく。









「え…?!?!?!」








続く

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