「え?!何いきなり?!
モテないから!(笑)」
「え〜?そうなの?
こんなに可愛いのに???
(笑)」
「いやいや(笑)言いながら笑っちゃってるじゃん(笑)」
「いや、まじで伊藤は可愛いと思う。
しかも話し合うし」
あ…
まずい。
話が変な方向にいってる。
早く戻さないと…
そう思った時にはもう遅かった。
テーブルから身を乗り出した荒木の顔が、目の前に迫る。
咄嗟に顔を逸らそうとしたが、私の後頭部はすでに荒木の手に掴まれていた。
荒木が私に好意を寄せていることは、ずっと前から気づいていた。
みんなで話しているときも、二人で話しているときも、荒木が私に一歩踏み込もうとする瞬間が今まで何度もあったからだ。
話の途中で「やっぱりいいわ〜〜」と呟いていたり、
小声で話しかけてきたり、
「そのTシャツかわいい!」と言って写真を撮られたこともあった。
確信に変わったのは、私の好きなタイプを聞き出そうとしてきたり、彼氏がいるかを本気で聞き出そうとしてきたときだった。
それも一度や二度じゃない。
私はその度にぼやっとした返事をして、荒木の質問には答えないようにしていた。
私は、荒木のことを恋愛対象として全く見ていなかった。
それなのに、荒木に優しく接していた。
わざと優しく接し続けていた。
自分に好意を寄せてくれている人と話すのは、やっぱり心地よかった。
自分がモテている実感を得られていた。
会話のなかに、さりげなく荒木を褒めるような一言を挟むと、荒木が私にメロメロになっていく。
荒木が喜んでいる様子を横目に見ながら、さりげなく体を近づけたり、あえてすっぴんを見せたりして私は楽しんでいた。
そういう私のずるくて卑怯なところが積み重なり、相手に大きな勘違いをさせてしまった。
同期だからって、寮だからって、昼間だからって、完全に油断していた。
完全に、油断させていた。
結局私は顔を逸らすことができなかった。
荒木の口が私の口に着地すると同時に、酒臭い匂いが鼻に入ってきた。
ツンッと鼻を刺激する匂い。
『荒木くんって、お酒弱いんじゃなかったっけ…』
そう思いながら横を見ると、テーブルには空になったトール缶が5本置かれていた。
私の後頭部が荒木の手で押さえられたまま、2人の唇がより密着していく。
荒木は片手でローテーブルをずらすと、脚を組み直し体を私に近づけてきた。
『いやっっっ』
どんなにモテを感じて喜んでいても、恋愛対象、いや性的対象として見てない男性との絡み合いは苦痛だ。
距離をつくろうと両手で荒木の胸を押す私。
荒木から体が離れたと思った瞬間、ぐらりと私の体が揺れた。
荒木が私を押し返したのだ。
そのまま私は後ろに倒れると、ボフッとクッションに体が沈む。
『え・・・?』
目の前には白い天井が広がっていた。
続く
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